時間をかけてする選択が正しいとは限らない
「熟慮に熟慮を重ねた結果」という表現があるように、「あらゆる選択肢を考慮したうえで、時間をかけて検討するほうが、正しい判断ができる」と考えている人が多いでしょう。しかし、必ずしもそうではありません。
ラドバウド大学のダイクスターハウス氏らは、4台の中古車を用意し、参加者たちにそれぞれのスペックを説明して、その中から「お買い得な1台」を選び出せるかどうかを調べる実験を行ないました。
参加者たちは、(1)「よく考えて選ぶグループ」と、(2)「選ぶための時間が少ないグループ(制限時間が設定され、パズルを解く課題をしてから選ばなければならないグループ)」に分けます。
まず、「燃費」や「エンジン」など、4つのカテゴリーについての説明をしたところ、(1)はほとんどが、(2)も半数以上が「お買い得な1台」を選びました。これは、意外な結果ではないでしょう。
ところが、次に、説明するカテゴリーを12に増やして実験をしたところ、(1)で「お買い得な1台」を選んだのは25%以下でした。当てずっぽうでも25%なので、考えていないのと大差ありません。さらに驚くべきことに、(2)では60%の人が「お買い得な1台」を選んだのです。
この実験から、情報が多い状態では、考える時間がたくさんあれば正しい判断ができるわけではないことがわかります。
むしろ、限られた時間内で考えるほうが、重要だと思われる情報を絞って判断することになり、正しい判断をできる可能性が高まるのです。別の言い方をすれば、情報が多すぎると、些細なことが気になって判断を誤るということでしょう。
また、スワースモア大学のシュワルツ氏によると、より多くの情報を集めたうえで選択したいと考える「マキシマイザー(追求者)」は、自分が満足できる選択ができればいいと考える「サスティファイサー(満足者)」に比べて、後悔が多く、自己肯定感が低い傾向にあります。
情報を集めることに時間を費やすよりも、自分の中に判断基準を作り、それをクリアすればよしとするほうがいいでしょう。
どんな決断をするかより
「決断すること」自体が大事
シカゴ大学のレヴィット氏は、「コイン投げサイト」と呼ばれるウェブサイトを作りました。閲覧者たちが「今決めかねていること」を書き込んだうえで、画面上のコインを投げるというものです。表が出たら「実行」、裏が出たら「実行しない」というメッセージが表示されます。
すると、書き込まれた悩みで最も多かったのは「今の仕事を辞めるべきかどうか」、次に多かったのが「離婚すべきかどうか」でした。そして、63%もの人が、コイン投げの結果に従って行動しました。
さらに、コインの裏表にかかわらず、悩みの解決に向かって何かしらの行動を起こした人は、半年後の幸福度が高いこともわかりました。つまり、幸福度に影響を与えるのは、「どちらの決断をするか」ではなく、どちらであっても「決断すること」だったのです。
コーネル大学のギロビッチ氏らによると、人間は、短期的には「やってしまった」ことの後悔をよく記憶している一方、長期的には「やらなかった」ことの後悔をよく覚えていて、さらに、やらなかったことへの後悔は時間を経ることで高まっていくということです。
また、「何かに集中している人は、そうでない人に比べて、幸福度が高い」という研究もあります(ハーバード大学のキリングズワース氏らの研究)。
ですから、何かをしようと思っているけれども行動できずにいるなら、コイン投げでも何でもいいので、まずは決断して、とにもかくにも一生懸命やってみてはいかがでしょうか。そのほうが時間の節約になるだけでなく、幸福度も高まるでしょう。
考え込むよりもボーッとしたほうがいい
考えすぎて時間がなくなるのには、「良いアイデアが思い浮かばない」「ひらめかない」というケースもあるでしょう。歴史上の偉人たちの発明や発見には、根を詰めて考えているときではなく、ボーッとしているときに頭に浮かんだものが少なくありません。
例えば、「アルキメデスの原理」は、アルキメデスが入浴中に思いついたと言われています。また、木からリンゴが落ちるのを眺めていたニュートンが万有引力についてひらめいたという逸話も、真偽は定かではないとはいえ、ボーッとしているときに名案が浮かぶ好例と言えるでしょう。
皆さんも、アイデアや問題の解決策を、ボーッとしているときに思いついた経験があるのではないでしょうか。
ワシントン大学のレイクル氏らの研究でも、「行動しているとき」よりも「ボーッとしているとき」のほうが、記憶や価値判断に関する脳の部位が活発に働いていることがわかっています。
「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれるもので、近年、研究者たちの間で注目されています。無意識の状態のほうが、物事の意外なつながりや新たな発見が生まれやすいと、科学的にも考えられるようになりました。
by強め女子会
Photo by illust_hime