一言目が違う。説明が上手い人、下手な人

「ややこしい話をシンプルに説明する人」や「瞬時に自分の意見を出す人」を見ると、多くの人が「この人は頭がいい」と感心する。なぜ「頭のいい人」は、いつでも「スジの良い意見」や「わかりやすい説明」ができるのだろうか。

いきなり「本題」に入ってはいけない
 オフィシャルな場における「話す技術」「書く技術」の核心部分は、やはり対比ということになります。すでに本書で様々な種類の対比を紹介したように、どんな対比から「自分の意見」と呼べるものを出したのか、その手の内を明かすように話しますし、書きます。

 まず〈序論+本論〉という型が大事です。あらかじめ原稿を用意する講演・学会での発表・プレゼンなら当然ですが、それほどではないある程度即興的な意見表明でも、序論を意識します。

本題の前に伝えたい5つのポイント
「序論」では、次のような項目を入れます。

・テーマは何か ・なぜそのようなテーマを選んだのか
・テーマのどこに焦点を当てるのか
・自分の立場・賛否はどのようなものか(結論先取り宣言)
・このあとの本論ではどんなことをどんな順番で話すのか

 これらを明示することがおすすめです。書籍でいいますとテーマと動機を語る「まえがき」だけではなく、「目次」まで伝えると考えるとよい

冒頭で見取り図を示す 「マサチューセッツ工科大の講義スタイル」
 今や全米だけでなく、世界中から優秀な学生や研究者が集まるMIT(マサチューセッツ工科大)ですが、歴史の中で、この大学の評価を上げることになる契機として、講義スタイルの徹底があったと言われます。

 まず、講義の冒頭で、その講義の見取り図を示す。何を目的にどんなことをどんな流れで話すか、いわばマップを見せる。年間あるいは学期の講義スケジュールを「シラバス」(ラテン語で一覧表を意味します/オムニバスは多彩なものを集めたものです)として学生に配布することは、今では日本の大学でも当たり前になりました。逆に当たり前ではなかった時代があることのほうが驚きでしょう。

 このシラバスは大きな地図ですが、1回ごとの授業の地図も示すことがMITの講義スタイルです。

 しかも講義を終了させるに際し、その日の内容を総括する。あらためて何をテーマに、何を目的とした講義だったのかおさらいをする。大切なことは繰り返すのです(もちろん、「1回しか言わないからよく聞けよ」というのも聴衆を引き付ける一つの方法ではありますが)

これがMITスタイルだったのです。そうやって学生を伸ばす大学として評価され、ゆえに優れた学生が集まるようになり、ますます教育成果が上がり、というよいサイクルを醸成していったのですね。

「対比思考」を仕事や勉強に取り入れる──著者からのメッセージ
 これから社会人になる人、すでに社会で活躍しながらもっとキャリアアップしたい人、日々の学業や仕事で課題発見・課題解決をしたい人へ向けて、思考のスタイルの提案をしたいと考えています。

 そうした知的好奇心をもつ方々へ、即効性もありつつ長期的に、また幅広く役立つ思考法を贈りたい。そのような思考法は事実あるのだから。これが『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』を書いた著者の動機です。

 すでに書店には「思考法」について書かれた本がたくさん並んでいます。本書で著者が提示するものは、おそらくそれらを矛盾なく包括できる、あるいはそれらのベースになりうるものです。本書全体を通して詳しく語りますが、シンプルでいて応用可能性の高い“知のアイテム”になります。

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